「…………ごめん。やっぱり無理。俺今腕こんなだし。これで帰って」
ギプスを見せて頭を下げる。
一瞬抱いちゃえばって思ったけど、何故かアイツが頭をよぎった。きっと帰れば飯あるだろうし……。
「ほんとごめん!」
タクシー掴まえて女の子押し込む。
「行き先はこの娘に」
運転手に一万円札を渡すと、行ってくれと促す。
「はぁっ……」
空を見上げる。ビルの間から見える星空。もうとっくに終電は出てしまった。タクシーも今のが最後。どうせ一駅先だし、次が来るまで待ってるのも嫌だった。
「しゃーねぇ。歩くか」
夜中にてくてく歩いて帰宅したという訳――………。
「……きもち悪…」
何回も吐いた。昨日の夜、やっとうちにたどり着いた時にはヘロヘロで玄関先にあった飯を食う元気もなかったから……夜、朝、昼と何も食ってない。もうすでに胃液しか出ない。
「はぁっ………」
悪寒と目まいと頭痛。死にそう……
親なんかほとんど家にいなかったから、薬はおろか、体温計すらどこにあるか知らない。つうか、そんなもんうちにあるのか?
「四時か………」
もう学校は終わる時間。さっきからある顔が何度も頭をちらつく。あのでっかい分厚い眼鏡のアイツ―……。
「看病なんか……してくれる訳ねーよな」
体調悪いとことさら、人恋しくなるようで。携帯から適当に女選んで来てもらってもいいようなもんだけど。そん時は何故だか、自分でも分かんないけど……アイツに側にいて欲しかったんだ。
-ガチャッ-
ふらつく足を引きずって。なんとか玄関を出る。横を見ると……律義に朝飯用の弁当。
-食えなかったな-
病気で気弱になってるのか。申し訳ない気持ちが沸いて来る。
-ピンポーン♪-
向かいの玄関のチャイムを鳴らす。……応答がない。ズルズルと玄関前に座り込む。
-まだ帰って無いのか……コイツに頼るなんて…どうかしてるな-