まだ桜も咲いていない、春に向かいつつある季節。


アキは19年間育ってきた日本を飛び立った。


…未練がないといったら嘘になる。



だけどアキは、これから始まる生活に期待だけを持って飛行機に乗っていた。



家を出る時、姉と弟と3人で抱き合って泣いてしまったアキの目は少し腫れていた。



やっぱり日本にいたいかもと一瞬想ってしまったが、今のアキはもうすでに

『何よりも大切な存在』

になっていたあの男に会いたいという気持ちだけを感じていた。




「…今日イギリス着いたら荷物整理して、ちょっと恐いけどあの路地に行ってみようかな?」



アキは窓の外の雲をぼんやり眺めながら考えていた。