でも、私には何も書けなかった。


愛情という感情がどういうものなのかがわからない私には、何も書けない。




どうすれば愛する気持ちがわかるのか。

どうすれば愛される気持ちがわかるのか。



その気持ちはどんなに考えてもわからなかった。




「脚本家かぁ。そうね。まずは俳優とか役者になって、そういう役を演じたら色々な感情がわかるんじゃないかしら」



桜井先生はそう優しく呟いてくれた。




その日からだった。

私の将来の夢が決まったのは。





「桜井先生は娘さんや息子さんを愛していますか?」

「ええ、もちろんよ」

「…先生のような母親だけの世界だったらよかった」



私がふと呟くと、桜井先生は笑いながら話し始めた。





「ラヴ、この世界にはたくさんの過ちがある。当たり前の事を出来ない人はたくさんいるのよ?

あなたの親も、あなたがいらなくて捨てたわけじゃないかもしれない。だってあなたがいらないなら、あなたを産んだりしないでしょ?出産とは簡単に出来る程楽じゃないのよ」


「…捨てたのにはかわりありません」



俯く私を先生は黙って見つめていた。