子供のように声をあげて泣くアキを見て男は一瞬驚いたが

すぐにフッと微笑んで、アキが泣き止むまでずっとアキの背中を撫でていた。




「送ります。家はどこですか?」



アキが泣き止むと男は立ち上がった。




「…えっと、空港まで」

「日本に帰るんですか?1人で旅行に?」

「両親がこっちに住んでいて、学校が夏休みなので遊びにきてたんです」

「そうですか。では行きましょう」



アキの話にとくに食い付く様子もなく、男は歩き出す。



吹き抜ける風に靡く黒髪。

その隙間から覗く灰色の瞳。

外国人らしく鼻筋の通った白い綺麗な顔。

190近くあるのではないかと思うほど高い身長。



アキはそんな男を見つめながら、胸の鼓動を感じていた。




空港までの道を特に会話をする事もなく2人は歩いた。




「じゃあチケットの手続きしてきますね」

「はい。いってらっしゃい」



男は微笑みながら頷く。





アキが手続きを終え男の所に戻ると、そこにはもう男の姿はなかった。



搭乗時間までそこで男を待っていたアキだが、男が戻って来ることはなかった。




「…名前くらい聞いておけばよかったなぁ」


アキはそう呟くとその場から立ち去った。






その出逢いが運命であったとも

この時既に恋に落ちていたとも知らぬまま…