「はーいお団子ですね!!」

いつもの様に、美夜は明るく元気に接客をしていた。

毎日があっという間で、気がつくともう日没に近い時間になっていた。


美夜がのれんをしまおうとしていると、いつの間にか後ろに男が居た。

背後に急に現れたので、美夜は内心驚いていたが冷静に対処した。

「あの、もう店は終わりですけど…」


男は黒く長い髪を後ろに一つでまとめていた。目は藍色のような瞳で、まつげも長い。

ようするに、いい男だった。

その男はニヤリと怪しく笑い鋭い犬歯が顔を覗かせる。

男は、ゆっくりと口を開く。

「…知っている」


美夜は、丁度のれんをとり終わりなるべく関わらないように店の中に入る。

夕日ももう寝静まる頃ぐらいだろうか。やっと美夜は帰る支度が出来、店主に挨拶してから店を出る。

店をでて数歩歩くと美夜は足を止める事となる。

なんと、先ほどの男がまだ立って待っていたのだ。


美夜はわざと怒りを表に出すように、男に話しかける。

「何ですか、貴方は。」

そう言うと男はクツクツと喉をならす。

「昼間とは随分違うなァ…」

暗い色の着物を着ている男は、すっかり夜の闇に溶け込んでいて、月明かりに照らされるのは片頬だけでよけい気味悪く思えた。


「れ、礼儀が通ってない方は嫌いです!!」

美夜は、だんだん恐怖心が沸いて来て、振り切るように足早に歩く。


が、男はニヤニヤと犬歯をギラリと覗かせてついてくる。

次の瞬間。


美夜は男に腕を捕まれ、店と店の間の隙間に連れていかれ、壁に押し付けられる。