気持ちはいらない。

子供のために、自分のために、互いを利用する。


そんな結婚を、自分は受け入れる?


真緒は空っぽのマグカップを見つめ、見えない答えを探し続けた。










―――真っ暗なリビングに足を踏み入れ、理人はため息をつく。

昼間の騒々しさを覚えているせいか、いつもより静寂を強く感じる。


「明日は朝から会議だったな」


スーツを脱ぎ捨て、ソファーに深く腰を下ろす。

見慣れた天井を見上げ、煙草を取り出し、ライターを探す。


「・・・・・・」


ライターを取る手が、不自然に止まる。

ふと、昼間に一臣から言われた言葉を思い出した。


『香坂さんが結婚を承諾した場合、当然ながら一緒に暮らすことになります。その際、喫煙は控えた方がよろしいかと』


「・・・・・・はぁ」


妊娠について詳しくはないが、喫煙が妊婦に悪影響なのは理人でも知っている。