楽な道に逃げてしまえば、そう思いたくなる。
「世間体の話をしてるんじゃない。現実的な―――金銭的な話をしてる」
下世話と思われても、必要なことだ。
出産にも、お金はかかる。
もちろん、その後にも。
「香坂」
「・・・・・・はい」
真剣さを帯びる理人の声に、真緒は顔を上げた。
目が合えば、理人は一瞬たりとて、逸らしはしない。
「俺は、後継ぎを得るため、身を固めるため、お前を利用する。だから、お前も俺を利用しろ。子供のために」
それは多分、理人なりの優しさなんだと思う。
結婚の“理由”は、真緒の心を守ってくれるはずだから。
如何せん、物言いに難ありだが。
「それは、その・・・・・・」
「結婚してください、という意味だ」
「・・・・・・」
断ったら、どうなる?
もう、理人は諦める?
心が揺れる。
子供のために、理人を利用する。
理人のためじゃなく、子供のために。