回想しようと思ったが、必要はなかったようだ。

現れた人物を見た瞬間、真緒はすぐさま思い出したから。


「・・・・・・社長」


スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めた理人は、真緒が起きていることを知ると、どこか安堵したように見つめる。


「ここは、あの・・・・・・」

「俺の部屋だ。その様子だと、覚えているようだな」

「・・・・・・はい。社長が、運んで―――?」


理人は静かに頷き、未開封のミネラルウォーターを枕元へ置いた。


「あ、会社」

「早退の連絡なら、工藤が済ませている。それより、熱は下がったのか?」

「・・・・・・大丈夫です」


ベッドに腰掛ける理人から逃げるように、真緒は距離を取る。


「・・・・・・その、ご迷惑をおかけしたようで、すみません」

「謝罪が聞きたくて、ここまで運んだわけじゃない」


会社の医務室でも問題なかったのだ。

工藤に頼み、自宅に送り届けることもできた。

けれど、そのどちらでもなく、自分の部屋に連れて来た。