今まで俺達が辿ってきた軌跡は、全部奇跡だと思わないか?
その奇跡を、俺は手放したりしない。
――ガラッ……
勢いよく開いた扉の向こうには、
目を腫らした杏奈の姿があり、俺の突然の登場に驚きを隠せないようだった。
「……よぉ」
「なっ……何しに来たの!?」
精一杯の虚勢を張って俺を突き放そうとする杏奈に笑みを向けた。
もう、1人で抱え込むな。
全部、俺が背負ってやる。
「ちょっと、話がしたいんだ」
会計を終えた杏奈と俺は、いつか2人で来た中庭に足を運んだ。
移動中、一切口を開かなかった杏奈を、本当はこのままどこかへ連れ去ってしまいたかった。
けど、それが出来ないから、俺達はここにいるんだ。
喜びも苦しみも、何もかもが詰まったこの世界に。
ベンチに腰掛けると、杏奈はバツが悪そうな表情を浮かべた。
「もう一度、やり直そうぜ?」
長い沈黙を破ったのは俺の方。
その言葉を聞いた瞬間、杏奈の肩がピクリと跳ねた。
「やっぱ俺、杏奈がいなきゃ駄目だよ」
「そんなの……」
「ってか、離婚とか絶対しねぇし?
まだ籍入れてから1ヶ月しか経ってないし。
まぁ、100年経っても抜かねえけど」
「……や、だよ……」
「俺だって嫌だよ」
これは杏奈の本心じゃない、そう自分に言い聞かせながら、
目の前にある杏奈の目をしっかりと捉えた。
大きくて丸い瞳はゆらゆら揺れて、今すぐ助けてって叫んでる、そう思った。
「杏奈が俺を嫌いでも、俺は一生お前を好きでいるけど」
「そんなの駄目っ――……!」
広い中庭一帯に広がった杏奈の声。
それに驚いた他の患者が好奇の目で俺等を見る。
「あ……」
「そんなの駄目って、何?」
しまったと言わんばかりに口元を手で押さえる杏奈。
そんな杏奈を抱き寄せて答えを待った。
「ねぇ?何……?」
「……っ」
俺の腕の中で再び泣き出した杏奈の肩はいつもより小さく感じた。
抱き締める力を強めると、杏奈の両手はふらふらと宙をさまよって。
結果、俺の腰辺りに戸惑うように添えられた。
「本当に思うこと、全部話して?それがどんな答えだろうと、俺、受け止めるから」
「う……ひっく……」
「泣かないで」
杏奈の頬にキスをして、流れる涙を舐めた。
周りの目なんか気にしない。
これから先、杏奈を傷つけるヤツが現れたら、俺が守ってやるから。
だから、何も心配することなんかないんだよ。
「っく……ほん、とはね……」
「うん」
「離れたく、なんか……なかったの……」