僕の知っていた琴美はこんな表情をしてなかった。
 いつでも優しく微笑んでいて、泣いていてすら可愛い人だった。

 仙台での仕事がきつかったんだろうっていうのは想像できる。
 僕が傍にいて毎日励ましてあげたかったけど、忙しいだろう、疲れてるだろうってお互いに気を使って距離を開けた。
 天海さんとの事は深い関係になる前だったから、どこか「仕方ないな」と思ってあっさり諦めた気がする。

 でも……琴美は違う。

 何年もメールで心を知り合った人だし、付き合ってからの幸せすぎる日々を思い出しても簡単に別れるなんて出来ない。
 なのに、僕は彼女を引き止める言葉が出てこなくて、そのまま「ホテルを予約してあるから」と言って背中を見せた琴美を見ているだけだった。

 琴美との関係はもっと強いものだと思っていた。

 もっと、もっと深く信じあってると思っていた。

 なのに、一つも本心を打ち明けないまま分かれるような浅い関係になってしまっていたのか?


 冷えたアパートに独りで戻った。
 二人で食べる為に用意してあった料理を見て、何かとんでもない苦しいものが胸につかえてる感じがして吐き気が襲ってきた。