「ごめんなさいね、あなたをちゃんと寝かせるところまでは手伝わせてもらうわね。このまま放置はできないわ」

 天海さんはそう言って、僕を布団の中に入れて、薬が飲みやすいようにイオン水と水を用意してくれた。

「食欲が無いなら、この栄養ドリンクだけでも飲んで。さっきバナナも買っておいたから、薬を飲む前に少し食べたらいいわ。胃が荒れると食事がとれなくなって消耗が激しくなるから」

 何からなにまで丁寧に世話をしてくれて、本当に申し訳ないほどだった。


 その時、自宅の電話が鳴った。

 誰だろう……。

 琴美だったら携帯に電話をくれるはずだし、もしかしたら会社関係の人か?
そう思って電話に手をのばしたけれど、受話器が手からすべり落ちてしまった。
 慌てて天海さんがそれを拾って「大丈夫ですか?」そう言って僕に受話器を再度持たせてくれた。

「すみません……。もしもし、笹嶋ですが」

 息も絶え絶え状態で受話器を耳に当てると、相手の電話が無言のままガチャリと切れた。
 何か言ったのかもしれないけど、もう僕には電話の相手が誰かなんて推測してる事すらうっとおしい状態だった。

「じゃあ何かあったら携帯に連絡下さい。薬も飲んだし、明日には熱は下がると思いますけど、絶対無理に出てこないでくださいね」

 天海さんが念を押すように強くそう言ってアパートを出て行った。

 週末までには絶対治さないと……。
 俺の頭の中は唯一その事だけが渦巻いていた。