会ったり電話したりすると、逆に応援する言葉が言えなくなるから、ついつい電話は遠慮してしまう。
 せっかく数週間ぶりに会っても、当たり障りの無い励ましの言葉なんかかけていて、自分でも「嘘つきだな」と思う。
 いくら長坂とは普通の営業パートナーだと言われても、あいつの頭脳プレイ
に俺は気付いている。
 
 琴美は強引さを嫌う。
 だから仕事という名目で彼女を独り占めにしてから、ゆっくり心を向かせようという計画なんだろうというのが分かった。

 僕は引き止めるべきだったのか……?

 琴美が頑張りたいと言った言葉を否定してまで、彼女を手元に残すべきだったのか。


 それを色々考えてるうちに、やはり不安ばかりが襲ってきてどうにもならない。
 こんなに不安になるなら、もう本気で結婚を考えた方がいいような気がした。ちゃんと夫婦になって新たなスタートを切るのも悪くないだろうって思った。


 琴美には内緒で僕は前からさり気なく聞いてあった指輪のサイズ通りの婚約指輪を買った。
 プロポーズはしたけど、きちんと形になるものは渡してない。
 少しはこれで琴美も安心してくれるだろうか……そういう気持ちだった。
 もし勇気が出れば、東京に戻ってくれと言いたい。
 彼女との暖かい時間が減ってからの僕は、本当に悲しいほど仕事オンリーの生活になっている。
 もっと強い気持ちで繋がっているつもりだったのに……どうしてこうなってしまったんだろう。
 営業パートナーが長坂じゃなければ、ここまで不安になったりはしなかったかもしれない。
 でも、もしかしたらこうやっている間にも琴美は長坂に少しは心を動かしているような気がして、早く指輪を渡してお互いの愛を確かめ合いたい気持ちが急いてしまう。