「お互い仕事頑張ろうね」

 こんな同僚の域を超えないような上辺だけとりつくろったようなセリフしか出てこない。
 綾人も、そんな私の言葉に軽く傷ついてるように見えた。
 本当は私が甘えるのを待っていたのかもしれない。

「長坂とはうまくいってるの?」

 今まで一度も聞いてこなかった長坂さんとの状態を綾人から聞いてきた。
 その“うまくいってるの”っていうセリフには、心の揺れが無いかどうかも入っている気がした。

「仕事の件ではうまくいってるし、彼も仕事以外の事はほとんど何も言わないよ」

 そう答えると、綾人は「そう」とだけ言っていつもはミルクを入れるコーヒーに何も入れず、そのまま飲み干した。
 綾人の中でも何か言いたいのに我慢している様子が分かったけれど、それを聞きだせずに私達は貴重な二人の時間を無意味に過ごしてしまった。

 終電までは居られないという綾人を夕方に駅で見送って、彼が最後に手を上げて寂しそうな笑顔のまま階段を降りて行くのを見たとたんに涙が溢れてきた。