「だから、内閣改造なんてしなければよかったのにね」
民自党の政権奪還から、早一年十ヶ月。『ヤベノミクス景気対策』の効果もあって、高い内閣支持率に支えられ順風満帆だった屋部内閣にも、今、その屋台骨を揺るがしかねない最大の危機が訪れていた。
そのきっかけとなったのは、今回の内閣改造で閣僚に大抜擢となった女性議員の政治資金収支報告書である。
収入と支出の差が二千万円にも及ぶそのずさんな内容に、疑惑は疑惑を呼び、結果その女性閣僚は就任したばかりの大臣の職を辞する事になった。
そして、その波及は他の閣僚にも………
大臣を辞職した女性議員の後任として経済産業大臣に就任したM氏の資金管理団体の政治資金収支報告書の支出欄に、事もあろうかSM バーへの支払いが記述されていたのだ。
「いやあ、アレには笑ったねマナミちゃん。あのM氏がSM バーとは、人は見かけによらないねぇ」
「しかし幹事長、ご本人は『あれは秘書が行ったもので、自分はそんな店に行った事は無い』とおっしゃってましたが」
だから良いのか?と言われれば決してそうでは無いのだが、あの真面目そうなM氏がSM バーに行ったとは私には容易に想像が出来なかった。
だが、幹事長は私のその言葉とは正反対の事を言った。
「いや、マナミちゃん。秘書のせいにするのは政治家の常套手段だからね。ああいう一見真面目そうな男に限ってそういう性癖を持っているものだよ!彼は絶対M男に違いない!」
「どうしてそう思うんです?」
「だって、その方が面白いじゃない」
「面白いとか、そういう問題ですか!」
「とにかくこれはヤベ内閣、しいては民自党のアキレス腱。この国会で僕が徹底的に叩いてあげるよ!」
幹事長はいつになく張り切っていた。この人は、与党をコキ下ろす時と他人の悪口を言う時は異常に張り切るのだ。
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