「最近、なんだか面白くないんだよね……」
行き付けのキャバクラ『ラビット』へと私を誘い、幹事長はうんざりとした表情でそう呟いた。
「面白くないって、いったい何がです?」
私の質問に、幹事長が答える。
「マナミちゃん、やっぱり野党に落ちるとダメだね……与党の時と違って、誰も民民党を相手にしてくれない」
「ああ、永田町の官僚達の事ですか……彼等は変わり身が速いですからね……」
「いや、官僚なんてどうだっていいんだけどね」
「えっ?……」
「この間も銀座のクラブで『民自党』の連中とかち合っちゃってね……あいつらばっかりホステスに人気があるんだよね!やっぱり政治家は与党じゃなきゃダメだよ!」
「・・・・・・・・・・」
面白くないって、そんな事だったのか……
あの衆議院総選挙での大敗から半年……確かに我々『民民党』は政界でこれといった話題も無く、その存在感は限りなく薄いものとなっていた。
幸いな事に、私も幹事長も辛うじて当選する事が出来たものの、あの選挙戦は本当に厳しい戦いだった。
「それにしても幹事長、よくあの選挙で当選しましたよね……」
告示前から民民党の大苦戦が予想されたあの衆議院総選挙。
幹事長は『僕は自力で当選する自信がある』と、比例での出馬を自ら断ったのだ。
そして……
「選挙演説でマジックを披露するなんて、幹事長だけですよ」
「イリュージョンと呼んで欲しいね!
あれ、相当練習したんだからね!」
選挙演説の最中に、鎖で縛られ箱に入りサーベルで串刺し状態からの大脱出という大掛かりなイリュージョンを披露して見せた幹事長。
あの後に、普段は政治に全く興味を示さない若者達のかなりの浮動票が幹事長に流れたという噂もあるが……
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