――「高崎さん、ごめん、お待たせ」
俺はあれから慌てて着替えて玄関へと走った。
下駄箱に背を預け立ちすくむ海ちゃんは、何もしていないのにただ、そこにいるだけで空間に色がついたように見えた。
「宇田川くん」
軽く右手を上げて俺の名前を呟く。
そんな君を見ているだけで俺の心は嘘みたいにときめいた。
靴を替える俺の隣でそんな俺をじっと見ていた海ちゃんと軽く目が合って二人訳もなく微笑み合う。
何だか………。
何て言えばいいだろう。
……今まで生きてきて、俺が今ここにいる過程が、全て今の瞬間のためにあったような。
そんな気がするほどに舞い上がっていた。
「高崎さんは電車なの」
「そう。…宇田川くんは?」
「俺は自転車なんだ。
ほら、少し鍛えたくて。
本当は電車で通う地域なんだけどさ……」
「そっか。…じゃあ駅までだね」
「…………。
明日から、電車で来るよ」
「え。いいのよ。そんな。
気をつかわないで」
「……そんなんじゃないよ。
ただ、………彼氏、…だから?」