ペコリと頭を下げてから彼女はパタパタと逃げるように校舎に戻って行った。
その後ろ姿を見ながら思い出す。
彼女が…あゆが、好きだと言ってきたあの日の事を。
『ねえ、花木くん。……好きなんだけど…』
君は大きな瞳を揺らして瞬きしながらそう言った。
見ると、彼女の手が小刻みに震えていた。
その瞬間、それまでただの友達だった君が、俺の心の特別な部分にスッと入ってきた。
今では俺が、君の深いところへとめがけて必死で両手を掻いている。
そんな自分が嫌で堪らなかった。
逃げ出すのは簡単な事だ。
新しい世界へと目を向ければ済むことなのだから。