私は扉を横にスライドさせる。
白い病室の白いベッドに横たわりながら、広尾はぼんやりとしていた。
相変わらずの目がちかちかしてしまいそうな白い部屋で、広尾だけが色を持っている。
広尾は私に気付くと、嬉しそうに目を細めた。

「佐々目さん」
「久しぶり。はいこれ」

私は、佳花から渡されたクッキーを広尾の布団のかけられた膝の上にぽんと乗せる。
それを見て、広尾はまた嬉しそうに「織原さんから? 毎度悪いなあ」と、ラッピングされたリボンをとく。

「動物の形だよ。ほら、これ」
「・・・・・・猫かな?」
「え、僕は犬だと思ったけど」

まあどっちでもいいか、と広尾はクッキーを口にした。
その様子を見て、今日は調子がいいんだなと思う。
広尾の病気が何だか知らない。容態も知らない。
いつから入院してるのか、何で入院してるのか。
私は広尾のそういうところは全部知らない。
あえて、聞いてない節もある。

「佐々目さんもいる?」
「いい。遠慮しとく」
「そう? 美味しいのに」
「この間嫌ってほど試食させられたの。作るんなら自分で食べればいいのに」
「それは道理だね」

クスクス笑って、広尾はクッキーを2,3枚つまんだ後、リボンをかけた。
そして、それを棚に置くと、ベッドに体を預けた。
調子がいいと言っても、それはほんの微々たるものだ。
見た目だけでも分かるとおり、広尾の病気は重いらしい。
小さい頃に比べて動くことも減ったし、私がたまに寄ってもほとんどベッドに体を沈めている。

「ねえ、佐々目さん」

私の思考を遮るように、鈴が転がるような静かな透る声を、私に投げかけてくる。
広尾は、私の思考が悪いところに行きそうになるタイミングを、よく心得ているらしい。
それ以上考えていたら、悪い方向へ転がりそうだった。

「学校のこと、話してよ」

私はいつも通り、学校の出来事を朝から順に話し始めた。