「深谷君!昨日はどうもな〜」

自分は読んでいた本から顔を上げると、右手を上げた。

夏のまぶしい光りが図書館へ差し込み、格子窓の向こうに緑の木々がゆれている…

朝早くから、一番景色のいい場所を確保して読書に没頭していると、意中の人が、かすかすに眉をしかめながら現れた。

小学4年生にしては大人びている…というか、表情があまりなく、影のようなものを感じさせる子だ…

真直ぐな黒い前髪が、目にかかるのをたいして気にもせず首を傾げると、自分の座っている大きな机席の二つ隣りに腰を下ろした。

「…おはようございます…」

「おはよう、深谷君。昨日は眠れた?」

「いいえ…ハルは?」

「ん、オレ?オレも、ちょっと本を読んでいたから、寝不足ぎみかな〜」

何気なく「ハル」と呼ばれたのが嬉しくて、思わずニヤニヤしてしまう…いや、ニコニコかな…?