きっかけは本当に些細な事だった。

 真純の心があんなにも傷ついていたなど、進弥は全く気付いていなかった。

 なにしろ自分自身は、真純との永遠の別れなど、微塵も考えてはいなかったから——。




 通勤途中にバスの中から眺める、河川敷の桜並木が、ほんの少し色付いてきた。
 この並木は進弥が一緒に暮らしている、真純の家の近所まで続いている。

 帰りに少し足を伸ばして、もっとよく様子を見てみようと思った。

 進弥が再就職を果たして半年が経過した。

 会社勤めにも仕事にも慣れ、規則正しい生活——早起き——も苦にならなくなってきた。

 真純と暮らし始めても、半年経った事になる。

 想いも伝え合い、恋人同士の甘い同棲生活——のつもりだったが、何かが違う。

 家賃も食費や光熱費も支払っているので、半年前に転がり込んだ時のような居候ではないが、ルームシェアをしているただの同居人という印象は否めない。