「さて、ここで一足早く人生の伴侶を得たこの碧様が、恥ずかしがり屋の瑛士でも口に出しやすい愛の言葉を授けよう」

「口に出しやすい愛の言葉?」

何だそりゃ。

「さよう。思う存分使ってくれたまえ」

「つーかなんでそんな偉そうなんだよ」

「お前こそ授けてもらう側のくせに偉そうだぞ」

「いいからさっさと言え」

俺がわりと知りたがっていることを察して満足そうに口角を上げた碧は、皿からタレのかかったつくね串を持ち上げ、それで俺を指した。

「“俺も”」

授けられたのは、その3つの音だった。

「は?」

おれも?

つまり、me tooってことだよな。

これのどこが愛の言葉なんだよ。

「真奈美がお前に好きだって言ったら、すぐにそう返せ」

なるほど。

そのタイミングならこの何気ない3音も愛の言葉になる。

「俺も、ね」

「そう、その調子だ。はい、真奈美が言いまーす。好きだよ瑛士ー」

「俺も」

「好きよ」

「俺も」

脳内でシミュレーションしてみる。

……が、言える自信ねーよ。

ていうか男同士でこんな会話、軽く酔っているとはいえキモいわ。

「やめやめ。そんなんで問題は解決しないだろ」

碧が手にしているつくねを奪い、頬張る。

碧はその様子を見て、くつくつと笑った。

「好き、会いたい、もっと来い。それが素直に言えないっつーから、代わりの言葉を考えてやったんだろ。言っとくけど、かなりの妥協策だぞ」

それでもハードル高いっての。

俺はつくねを咀嚼しながら、返事がわりに拗ね顔を見せた。

「解決はしなくても、改善はすると思うぞ」

ホントかよ。