「もちろん真奈美に振り回してるつもりはないだろうけどさ」

「わかってるよ」

あの女の頭脳で、意識的に俺を振り回せるとは思えない。

何か企んでいるときも、顔に出るからわかりやすい。

「だから厄介なんだよね。瑛士みたいなタイプには」

「俺みたいなタイプ限定?」

「そう。素直になれないタイプ限定」

ぐ、と息が詰まる。

“素直じゃない”という言葉は、かれこれ28年、いろんな人間に言われてきた。

特に兄には、今でも頻繁にそう言われる。

昨年の秋に真奈美を取り合った後も、

「お前が素直に倉田を好きだと認めさえすれば、俺が悪者になることはなかったのに」

と文句をつけられた。

「でも、それが振り回されやすい理由なのか?」

碧は頷いた。

「思ったことを言えないってことは、自分のアクションが相手の出方をうかかがった後になるだろ。テニスでいうと相手のサービスゲーム」

「うわ、超納得した」

テニスではサーブ権がある方が、圧倒的に有利である。

「お前、ちゃんと真奈美に好きって伝えてるか? つーかそもそも言ったことあるか? 中学の時の告白はノーカウントだぞ」

我が親友ながら、なかなか鋭いところをつく。

「ねーよ」

碧が呆れた顔をした。

なんだよ、悪かったな。