「あんなに意識がなかったのに?」



「うん…あたしを呼ぶ声が聞こえてた」



「そうだよ、俺…必死で彩花のこと呼んでた。意識が戻らないし、めちゃくちゃ焦ってて…。

ゴメン、人工呼吸とはいっても…嫌だったよね。いきなりキスなんて…」



朝野くんはあたしから顔を背けると、申し訳なさそうに俯く。


……もし、朝野くんがあたしを助けたんじゃないとしたら、



人工呼吸は…



伊織がしてくれたの?



伊織なら…できるかもしれない。



だって、昔あたしが川で溺れかけたとき…



お父さんがしたのを見てたって言ってた。



あのあとしばらくは、



人工呼吸してるお父さんがカッコよかったから、俺にもさせろって言って、



やたらあたしにキスしようと、迫ってきてたよね…。



今思えば、あの頃の伊織はあたしにキスしたかっただけなんだね。



それを思うと、なんだか微笑ましい。



今はタダのチャラ男に成り下がったわけだけど……。