「桜子は、どうしてこんな所に?」

明確な理由を答えてもらえていない。

太い樹に華奢な手を当て、桜子は答えた。

『桜は、私の最も嫌いな花。嫌いだけれど、どこまでも私の心を魅了するの』

予想外の返答に、言葉が詰まる。

桜子と、5mほど距離がある。その距離を埋めようと、僕は歩みを進めた。

「なぜ、嫌い?」

『美しいから。同じ桜という名なのに、桜はどこまでも美しい』

「それは、妬み?それとも、憧れ?」

桜子はこちらに振り返り、僕が傍にいることに目を見開いた。

その後、儚げに笑い、

『両方』

そう答えた。