あまりに間抜けな声が出たのは、彼女の言葉が思いもよらぬ方向から出てきたからだった。


「…な、にそれ…?」

「あの、黒瀬さんに…颯さんとはどこまでいってるのと訊かれて…。」

「あ、の、人はー!」


黒瀬さんというのは職場の先輩で、やたらに俺と凜の話を聞きたがり、からかう常習犯。…彼女に凜は振り回されている。俺はもっとだけど。


「それで?」

「それで…あの、特にはって言ったら…『小澤くんも随分我慢してるじゃないの』と言われまして…。」

「そこが引っ掛かっちゃったわけね。…大体分かった。」

「それで私…このままじゃ嫌われるんじゃないか…というか、もうすでに嫌われて…。」


その先の言葉は言わせない。そういう意味で唇を唇で塞いだ。


「…るわけないじゃん。嫌いな子にキスしたりしないよ。家にあげたりもしない。心配だってしない。凜だけだよ。」

「…我慢、させてますか、私…。」


彼女が一番引っ掛かっているのがそこだ。そこに答えなければ話は進まない。彼女の不安そうな目が揺れる。今にも泣きそうだ。


「…まったく我慢してないって言ったら嘘になる。」

「やっぱり…。」


彼女の表情はさらに曇った。