セッテが嬉しそうに、机を運んでいる。
周りは誰ひとりとして、そんなにニコニコと運んでる人間はいない。
前も引っ越しを嬉しそうにしていたが、まさかそれが本音だったとは。

「七海、お前ホント嬉しかったんだな・・・」

「何がや?」

「引っ越し。」

溜め息を吐きながら、男性社員が話しかけているのが、聞こえた。
普段デスクワークが多いので、こういう力仕事は苦手なのだろう。
比較的小さい、書類の入った段ボールを運んでいる佳乃だって、引っ越しはあまり好きではない。
それに、スーツを着ているので動き辛いというのもある。
男性社員はワイシャツ姿に腕捲りをしていたりするが、まだ少し肌寒い。
セッテもその一人で、きれいに筋肉のついた腕を晒していた。

「俺、体動かすん好きやねん。」

「あー・・・なんかそれっぽい。」

「七海君、サッカーとか似合いそう!」

「バスケも似合うと思うよ。」

運びながら、周りにいた女性社員も混じりだす。
とたんに、セッテのいるところが、引っ越しとは違う騒ぎになってしまった。
多少のおしゃべりは目をつぶっていたが、あまり集まり過ぎるのは効率が良くない。