「じゃ、俺帰るね。
また明日、笹原さん」

可愛らしい笑顔のまま、悲しい表情なんて見せないままで、矢野は教室を出て行った。


少なくとも好きな人に振られたのだから、辛くないはずなんてないのに。

一番辛いはずなのに、断る恵を気遣ってそんな素振りも見せない。


どこまでも恵に優しい人だった。




矢野くん、ありがとう。
とってもとっても、かっこよかった。

あなたに想われていたこと、誇りに思います。

見えなくなった矢野の背中、矢野が出て行った教室の扉に向かって心の中で呟いた。