「もう大丈夫だよ。
お兄ちゃんと一緒に交番行こっか」
優しくそう微笑みかける河田。
………また人を助けてる。
「あたしも行く」
近づいてそう言うと、河田が顔をあげて驚いたように目を大きく見開いた。
「ま、牧瀬さん?」
「泣かなくても大丈夫だよ。お母さんすぐに来てくれるから」
しゃがんで迷子の女の子と目線をあわせてそう言うと、女の子はうん、と大きく頷いて。
「…よし、じゃぁ行こう」
女の子の手を握ると、きゅっと握り返してくる。
…ちょっと前のあたしだったら、絶対こんなことしなかったよなぁ。
交番までの道を、河田とあたしと女の子、三人で歩く。
女の子のお母さんはすぐに来て、女の子を抱き締めると、あたしと河田に、何度も頭を下げて帰って行った。
そして
「…牧瀬さん、ありがとう」
女の子とお母さんの姿が見えなくなった頃、河田がなぜかあたしにお礼を言った。
「別に河田がお礼言うことじゃないでしょ」
「…優しいね、牧瀬さんは」
「…あんたに言われたくない」
河田がいなかったら、あたしは迷子なんか助けてなかったよ。前のあたしだったら確実に面倒くさがってた。
好きな人って
自分を変える。
「あたしは、やっぱり河田が好きだよ」
――でも今は
あたしの“好き”を、とことん河田に捧げてみたい。
「フられたけど好き。その気持ちは変わらないから」