「…本当にみんな仲良かったんだね。」
今まで佐々木君の話を聞いていた私は、ふと声に出していた。
「あぁ。それに咲枝も明るく、一年の頃は学級委員もやってた。」
私の言葉に反応した月島君は、さらに言葉を足して答えた。
「そうだったんだ。…でも様子が変わっちゃったってこと?」
俯き加減に聞くと、今度は佐々木がため息をつき答えた。
「そう。咲枝の今までの様子も気になったが、海での出来事で咲枝の本当の性格が分かった。」
「本当の性格…?」
繰り返した言葉に、彼は無言で頷いた。
そして話を続けた。
海に着いた俺達はいち早く海へと駆け出した。
でも咲枝は海へと入ろうとはせず、ただ眺めてるだけだった。
空也は気になったのか話しかけてて…やがて崖のある方へ行ってしまった。
一緒にというよりは、空也が後ろから付いて行くって感じでさ。
そしてしばらくしても二人は戻って来なかったから心配になり、俺達は様子を見に行った。
そしたら…咲枝と横になりぐったりしてる空也が居て。
俺らは何があったのか聞いた。しかし咲枝から出て来た言葉は信じられなくて…。
顔が曇ったみんなを気にかけながら、私は恐る恐る聞いてみた。
「ねぇ…言葉って?」
「落とした。」
「え?」
突如声がした方へ向くと、無表情の咲枝ちゃんが立っていた。
「私が空也君を落とした。そう言ったの。」
「咲枝…」
そう言った佐々木君の声は、今にも消えそうだった。
そして咲枝ちゃんは私に身体を向けて、淡々と言った。
「…これで理解したでしょ?私達クラスの関係が…。貴方も分かったならこれ以上私に関わらないで。」
咲枝ちゃんの言葉が頭に響いた。私は突き刺さる言葉に何も言えず、立ちすくんでいた。
その後、移動教室が終わった後も前と変わらないクラスの関係があった。
納得はしてない、でも私は何も言えない日々が続いていた。
私は今屋上に来ていた。
場所は違うけど、ゆきと最後に一緒に居た場所だから、ゆきが側に居る気がする。そんな想いから、よく考え事をする時は良く来る場所だ。
「ゆき…どうしたら良いのかな?」
空に向かって呟いた。
何も答えず、ただ青だけが広がってる空に涙が滲んできた。
「~っ…私が落ち込んでどうする!!」
大きな声で気合いを入れると、うんざりした声が聞こえた。
「ごちゃごちゃうるせぇよ。」
「あ…」
声がした方を見ると、屋根上からこっちを見下ろしている月島君と目が合った。
そういえば、月島君って双子の弟を…。そう思うと無理に事情を聞き出そうとした、罪悪感が生まれてしまった。
「あの…ごめんね。」
「は…?何が?」
彼は分からないとばかりに目を見開いた。
「弟君のこと無理に聞いて…。辛いよね、思い出すの。」
「…別に。会える距離だしな。」
「そうだよね会える……え?だって…海から落ちたってー」
そう言いかけると深いため息が聞こえた。
さらに月島君はちょっと怒り気味の声を出した。
「弟を勝手に殺すな。」
「………え~!?生きてるの?」
「当たり前だ。…ただまだ入院中。退院したらまたA組に戻ることになってる。」
「そう…なんだ。」
私はふとあることを思い付いた。
「だったらその弟君に聞いてみようよ?誰に落とされたかさ…」
「あのな~真っ先に聞いたよ。そんなこと。」
「何て言ったの?」
「……自分で落ちた。」
予想外の答えに、私は目を丸くした。
「でも、あれは明らか誰かに落とされた。そしてあの場には咲枝しか居なかったから…」
「…だから咲枝ちゃんが落とした?」
「俺だって…考えたくねぇ。だけどそれしかないんだ。咲枝の様子だって変だったし。…次、自習だからってサボんなよ。」
月島君はそう言い残すと屋上を立ち去った。そして私はまた一人、空を見上げていた。
みんな苦しいんだ。そりゃあ空也君は月島君の弟だもん…苦しくないわけない。どうしたら…。
「あ…」
私はあることを思い付き教室へと駆けて行った。
「幸恵ちゃん!!」
「わっ!!…どうしたの?千南ちゃん。」
驚いてる幸恵ちゃんに近付き、あることを聞いてみた。
「空也君の病院、教えて?」
「え…」
「空也君、入院中なんだよね?だから病院を…」
私の言葉を打ち砕く様に、佐々木君が机を思いきり叩いた。叩く音が教室中に響いて、一瞬静まりかえった。
「病院まで行って何すんだよ。」
冷たい目で佐々木君は聞いてきた。
「何ってー真実を知りたくて…」
「…咲枝本人が自分が落とした言ってるんだ。それが真実だ。」
「だからそれは…」
「もう良い。」
私達の言い争いを止めたのは月島君だった。
「怜ももう良いよ。…どうせ空也に聞いたとこで何も変わらない。」
そう言い、私に言葉を続けた。
「夢ヶ丘病院…。空也が入院してんのはこの町にある夢ヶ丘病院だよ。」
そう言い残し、教室を出てしまった。
放課後、私は幸恵ちゃん、立川君と一緒にさっそく空也君の入院している病院を訪れた。
病室の中に入ると、月島君に瓜二つの顔があった。
彼は私達に気付くと微笑んだ。
「幸恵に智一。珍しい、どうしたの?…そっちの子は?」
「私、相原千南です。前に2年A組に転校してきて…。」
「転校生?じゃあ初だね♪初めまして、月島空也です。僕の双子の兄、星也のことは知ってるよね?」
「あ、はい。」
そう答えると、少し笑った。
「敬語じゃなくて良いのに~。タメでしょ?」
言われて私は気付いた。
私敬語だった…?
軽く息を吸い込み、再び私は口を開いた。本題に入るように…。
「ここへ来たのは聞きたいことがあって。」
「聞きたいこと?」
彼は相変わらずの柔らかい笑みで聞き返した。
「そう。あの時の海で何があったの?」
唐突に言われて、一瞬彼の目が泳いだ。
「何って…言ったはずだよ?自分で落ちたって。」
曇りのない笑顔で返されたが、ここは引くわけにはいかない。そう思った私はさらに言葉を続けた。
「でも咲枝ちゃんは…自分が落としたって言ったんだよ。」
「違う!!」
ここに来て初めて彼は表情が変わった。まるで全てを否定するようなそんな顔に…。
「咲枝は悪くない…あれは僕が自分で落ちたんだ。」
「空也君…。お願いだから本当のこと言って。じゃないと…咲枝ちゃんがもっと傷付くことになるの。」
「えっと…どうゆうこと?」
やっぱり空也君は知らないんだ。咲枝ちゃんがクラスでどうゆう風になってるか。
「今、咲枝ちゃんはクラスでいじめられてる。」
「え…」
「だから、空也君が本当のこと言わないと咲枝ちゃんはもっと…」
「ーめ」
「え?」
「駄目っ…今すぐ止めさせて!」
突然態度が変わった空也君に、私はただ呆然とするだけだった。
突然声を上げた空也君。
幸恵ちゃんや立川君も驚いている。
「空也…どうした?」
「あ…」
立川君に声をかけられ落ち着きを戻した空也君は、私達の顔を見比べた。
すると一つため息をつき真剣な眼差しで言った。
「…明日、学校に言って話したいことがある。」
「え…」
「君達だけじゃなくて、クラス全員に聞いてほしいことがある。…放課後の17時に咲枝以外を集めてくれないか?咲枝に聞かれるわけにはいかない。」
私達は顔を合わせて頷いた。
「分かった。」
次の日、みんなの様子はいつもと違った。毎日の様に繰り返されたことが今日は一つも起こってない。
きっとそれは私達が昨日みんなに連絡をしたから。空也君が放課後、話したいことがあると。
放課後、空也君が学校に来た。久しぶりの空也君の登校に普通ならみんな喜ぶ表情が、今日は真剣な表情になっていた。
空也君はドアを閉め、ゆっくりと教壇に上がり息を吐いた。
「さっそくだけどみんな聞いてほしい。今から僕が話すことが真実だ。」
そうして話し始めた空也君だが、その話は信じられない話だった。
咲枝の様子が変わった時、心配になり気晴らしにと海に誘った。
でも咲枝は入ろうとはせずに崖の方に行ってしまった。
「咲枝!!」
声をかえると咲枝は一瞬無表情だった。でもすぐにいつもの笑顔に戻った。
「空也君♪どうしたの?向こうで遊んで来なよ~。」
「咲枝こそどうしたんだ?こんなところに。」
「あ、私!?私は普通に海を見下ろしに来たの♪」
「海みたいならあっちの浜辺の方が…ここ危ないし…」
そう言うと咲枝が急に笑い出した。
「大丈夫だよ♪空也君より運動神経良いし~。」
からかうように言うと、途端に表情に変わった。
「それに、ここの上から見下ろす海って気持ち良いし綺麗だから…。」
「…」
僕は意を決めてもう一度咲枝に聞いてみた。
「咲枝…何があったんだ?」
「え…何が?」
咲枝は目を丸くしてはキョトンとした。
真っ直ぐ咲枝を見つめ再び口を開けた。
「好きだ。」
「え…」
「咲枝が好きなんだ。だから…何も隠さないで話してよ。」
ますます目を丸くした咲枝は何かを口にしようとした、その時―。
「咲枝…お前何やってんだよ?」
顔を赤くしながら、ビックリして振り返ると男性が立っていた。
「あ、お兄ちゃん…。」
お兄ちゃん?そういえば聞いたことあったな…咲枝に兄が居る話。
初対面だったから、笑顔で咲枝兄に挨拶をした。
「初めまして。咲枝の同じクラスの月島空也です。」
「おぉ。咲枝の兄の咲斗だ。じゃあそっちの浜辺に居たのも…月島君の友達か?」
「はい。」
「ならちょっとだけ妹に話あるから、戻ってもらってて良いかな?」
僕は咲斗さんの優しい笑みに、微笑み返した。
咲斗さんなら咲枝の悩み知ってるかな~。後で聞いてみよう。
そう思い、咲枝に向かって声を出した。
「咲枝、また後で。」
ふと見ると悲しそうな咲枝の表情が目に映った。
しかしすぐに笑顔に戻り、笑いながら言った。
「うん、また後で♪」
浜辺に戻ろうと浜辺を歩き始めたが、先程の咲枝の表情が気になり再び崖へと戻った。
咲枝の姿がかすかに見えて、声をかけようと思った時―何かを叩く音が響いた。それと同時に小さな悲鳴が聞こえた。
「咲…枝?」