「なんかウチらまで緊張するよーっ」

そんな夏の吹奏楽コンクールは、出場しない私達にも一大イベント。
アヤが重い溜息をつくのもよくわかる。

「私達もできることをしないとね...」


その時、まだお昼休みだというのに、どこからともなくサックスの音が聞こえ始めた。


「あれ、お昼まで吹いてるの?誰?」

アヤの疑問に答えようと、微かに聞こえてくる音に耳をすます。


「...この音...多分、ソウちゃんだよ」


なめらかで、どことなく不思議な深みがあって。
間違えるはずがない。__これは、ソウちゃんのサックスの音だ。

食べていた階段から少しだけ顔を出すと、
いつもつかっている2-Bがちょうど見える。


「ほら...やっぱり」

私の視線の先に、窓越しにサックスを吹くソウちゃんの姿が見えた。

ソウちゃんの音は、そこらの人と全然違う。
先輩は、確かにすごく上手い。


だけど私は...
やっぱりソウちゃんの、この深みのある音色が一番すきだ。


「ね、シオ。ウチの部のサックスでさ、一番好きな音だーれ?」


アヤが後ろからそんなヘンなことを聞くから。


「上手いとか関係ないなら...ソウちゃんの音が好き」