「…ぃっ…ぅ…ぃ…唯っ!!」
ビクッ
…なんだぁ?俺寝てたのか
で、こいつが起こしたんだな
洋を睨み付け、文句言ってやろうとした時
「唯、いるぞ」
はぁ?何がだよ
「ほら、あの席の子」
洋が驚いた顔で言ってくる
あの席…?
起こされて不機嫌な状態プラス洋の意味不明な言葉に、俺のイライラは増す
「何の事だ…」
言い終わらないうちに、洋が俺の頭を掴んで回した
ゴキュッと首の辺りが鳴った事に関しては、後で一発入れてやるとして…
「なっ、なっ?何で今まで
気づかなかったんだろな俺ら」
興奮して話す洋の意味が分かった
朝、気になってたんだから授業中とかもずっと見とけばいつ来たか気づいたはず
いや、それよりも…
存在感がないっていうか、いたんだけど今まで誰にも見えてなかった感じ
6限目の今の時点でようやく気が付いた
朝、空だった席に人がいた
「いやでも、別に驚く事なくね?」
そう、ただいただけ
あの人は何もしてない
俺らが勝手に妄想してただけだよな
普通の人じゃなさそう…て
「ごちそうさまっ」
夕食食べてソファーにすわる
うっ、食い過ぎたか
今日の夕飯は、ハンバーグとオムライス
母さんの得意料理なんだけど、2品とも主食じゃねーか
「あっ、唯〜デサートのわらびもち食べようよ」
わらびもちって、デサートなのか?
「ってか、腹いっぱい過ぎて食えー…『ぎゃぁぁあ』
何?
ゴキブリ? ムカデ? クモ?
奇声をあげる母さん
「どうし…『きなこっ』
きなこ?
「きなこ買ってくるの忘れてたわっ」
あたふたする母さんの横で俺は頭を抱えた
「唯、買ってきて」
母さんが、お願いってポーズで言ってくる
別にいいけど…
食ったもの消化させる為に少し歩くか
そして…
この時から俺の運命って、神様に…いやあの女に操られてたのかな
「…あっつ…やっぱ夜でも暑いな」
帰り道、汗ではりつくTシャツをパタパタと肌から離しながら夜の道を歩く
「うわっ、星すげー」
空を見上げると、星が隙間なく敷き詰められている
時々思うんだけど、この世で一番美しいのって星なんじゃないのかな
宇宙から見ればただの惑星なのに、地球にいると光って見える
「俺ってロマンチスト?」
思わず笑みがこぼれる
早く帰ってわらびもち食うか
早足になったその時、道路の向こう側の公園に誰かがいるのが見えた
いや、一般人なら何とも思わないんだがうちの高校の制服着てる
こんな遅くに何やってんだろ
知ってる人のような気がする
俺は、見えない糸で引っ張られるようにその人のいる公園に歩いて行った
その人はベンチに座ってた
空を見上げてる
俺は、その人の背後3mほどまで来てはっとした
……何やってんだ俺
何も考えずに来たけど何しにここへ来たんだ?
この人を見かけて…別に何かしようと思った訳ではない
自分の意志で来たのに…?
どうしよう…今さら引き返しても何か恥ずかしい
別に見られてる分けじゃないのに
でも気付いたら、いつの間にかあのー…と話しかけていた
一風ふいた…気がした
生暖かい風ではなく、この季節に似合わない冷たい風が
その風がふき終わるのを待ってたとばかりにその人が振りかえる
…心臓の音が聞こえる
何なんだこの感覚
心臓の鼓動が早くなって体中が金縛りにあったみたいに固まりさっきまでのベタベタの汗がすっかり乾いて…その上を冷や汗が落ちる
まるで死を前にしてるような…
この状況を、いや…この…女を怖いと思った