「一体この草むらはどこまで続くのだ」


姫巫女がちょうど森に入った頃、数十メートル先に、がさがさと草をかき分けながら暗い森の中を進む青年がいた。腰には高価な刀を帯刀している。鎧はガシャガシャと音を立て、腰に下げた刀は欠けた月の僅かな光を受け輝く。

輝く刀の鞘には金粉が散りばめられ、柄には金塊。それは一眼にして青年の力量を測ることが出来た。

鬼と人間の抗争で、身分ではなく力のある者がのしあがっているこの世界。青年――桃太郎はその世界で上の位置にいた。


あの日から十七年。
月日は確実に時を重ね、桃太郎は自らの腕を磨き続けてきた。


すべては鬼を倒す目的を果たすために。



「……鬼、か」


己の欲望に忠実な、イカれた表情を思いだし、桃太郎は眉を寄せる。脳裏に残る、千切れて原型を留めていない肉塊。最期の最期まで途切れることのなかった断末魔。

込み上げてきた吐き気は、この重い鎧のせいかもしれないとため息を吐き首を振ると、桃太郎はふと近くに人の気配を感じた。

暗がりに目を凝らすと、細身のシルエットが浮かび上がってくる。

「女……?」


桃太郎と姫巫女、互いが互いを認識した後、先に行動をおこしたのは桃太郎だった。

「こんなところに女一人で、しかも夜も深い。何をしているんだ?」

一歩踏み出し近づいていくと、女はぴくりと一瞬身を固くしたが、すぐに凛とした声が返ってきた。

「私は久世神の巫女、名を姫巫女と申し上げます。貴方はその腰刀からお見受けいたしますに、桃太郎殿であろうかと存じますが」


「久世神の姫巫女、か。中々聡明な女のようだな。だが、機転が利かねば意味はない」


一瞬で鞘から刀を抜くと、桃太郎は姫巫女との距離を縮め刀先を姫巫女の喉へ突き立てる。