( 一瞬にして惑わせて )

「…雪、」
空を見上げると、白くふわふわとした物が降ってくる。

「初雪、ね」
ふと後ろから小さな声がした。
僕はそっと後ろを振り返る。其処には。
「貴方は雪が、冬が好き?」

僕は彼女から目が離せなかった。
ふわふわとした雰囲気の彼女。
其れに相応しいふわっとした髪は、今までに見たことのない綺麗な銀色をしていた。
銀髪の彼女、初めて会うはずなのに、初めてでない様な気がした。

年齢は同じくらいだろうか、背丈的には同じくらいだろう。
でも其の容姿と、優しく透き通る様な声は大人らしさを感じた。


「ああ、冬は好きだよ。」
僕は彼女に小さく返した。
「何だか不思議、貴方と会うのは初めてでない様な気がするの。」
「え…?」
僕は思わず目を丸くすると、彼女は冗談よ、と笑って見せた。

「雪は綺麗ね。」
彼女は手の平を空え向け、降ってくる雪を上手に乗せてみせた。
「でも、ほら。」
僕は彼女の手の平を覗き込む。
「とても綺麗なのに、捕まえたと思うと消えてしまう。」
彼女の手に舞い降りた雪は、ゆっくりと水へと変わっていった。


「…君の名前は」
僕は気に為っていた事を問い掛ける。
すると彼女は、
「貴方が付けていいわ。」
そう呟いて、ふわりと笑って見せた。



これは僕の初恋の話。
そして、彼女が居なくなる4ヶ月前の話。



あの日から僕は彼女と数回顔を合わせた。
色々な話を聞いたり、話したり。
そんな日々が幸せで、僕の中で当たり前になりつつあった。
でも一つだけ、たった一つだけ彼女が教えてくれなかった事。

彼女が名前を教える事は、なかった。
そして彼女は春になると同時に姿を消した。

彼女との4ヶ月は、まるで夢の様で。
本当に夢だったのではないか、とも思う。
彼女の行方は誰も知らない。
でも、脳裏に残るあの笑顔が夢でなかったと言っていた。

やっと少し触れる事が出来たと思うと、
あの忘れる事の出来ない、優しげな笑顔だけを残して消えた。
消えそうで、でも忘れられないあの透き通る声と一緒に。


「…、またきっと。」
僕は空へ小さく呟いた。
今年の冬、また会えると信じて。


( 一瞬で消える小さな奇跡 )




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きっと僕等
何処かで出会っていた

雪を触っていた時思い浮かびました
雪の結晶を見ようと思ったのですが、
直ぐに溶けてしまってω・`)
擬人化ネタです。
彼女は雪、だったのかもしれません。
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