( 手を伸ばしたあの瞬間 )
「何、してンだよ。」
放課後の教室、俺が扉を開けると其処には
今此処に居るはずのない人物が立っていた。
「…っだって、やっぱり私、言えないよ。」
「ずっと好きだったンじゃねェのかよ。さっさと言わねェとあの女に取られちまうかもな。」
「っ!…それは、嫌だ…けど、」
この女には好きな奴が居る。
そしてこの俺にも。
御互い近くも遠くもない関係の俺とこいつは、所謂相談相手。
こいつの好きな奴はそこそこ人気の男で、今日こいつの友人がその男に告白すると宣言したそうだ。
それを聞いた俺は確か、この女に「早く告ってこい。」と言った。
…はず、なんだが。
「だ、だって…!私、可愛くないし色々初めてで何を如何したら良いのか、分からないし…っそれに、つりあわない。」
彼女は小さな声で諦めたように呟くと、眉を下げた笑みを浮かべた。
「ンな事言ってたらお前、一生そのまんまだぞ。」
「…っ」
人は人を好きになる。
でも、必ずしも相手が自分を想ってくれるとは限らない。
世で言う両想いなんてものは偶然で、奇跡のようなものであって。
俺は考えた。
別に、相手が自分を想ってくれなくとも、それはそれで幸せな事もあるのではないか。
近くで笑顔を見て、時に涙する相手を友人として誰よりも近くで支えるのも
一つの愛ではないのか、と。
愛しているから手に入れたい。
『必ず幸せにする、だから…―』
愛しているから守りたい。
『いつまでも笑っていて』
「好きなンだろ、彼奴が。だったら素直に言えばいい。答えを怖がるなよ。」
「で、も。」
「俺が居る。」
「…?、」
「お前が笑って帰って来ても、泣いて帰って来ても。俺が居る。」
「…―っ」
「ほら、泣いてねェで行けよ。まだ走りゃ間に合うンじゃねェの?お前の足じゃ分からねェケド。」
「まっ、間に合うよ!…あ、あの!」
彼女はスクールバックを手にした後、教室の扉を開ける
「ありがとう。」
泣いた後の彼女の笑顔は、俺が見た中で一番綺麗に見えた。
可愛くない?
馬鹿だろアイツ。誰よりも可愛いっつの。
色々初めて、ねェ…
全部俺が欲しかったケド。
先ほど彼女が教室を出ようと走った時、ふわりと長い髪がなびいた。
もう触れられないと思うと、自然と腕が伸びてしまった。
ほんの少し、指先が彼女の髪に触れた気がした。
今頃アイツは、必死に奴の背中を追いかけているだろう。
人は笑うかもしれない。
好きな奴の背中を押すだなんて、自分が報われることはなにもない。
あの場でアイツに奴は無理だと、諦めろと言えば少しは希望もあっただろうが。
これでいい、報われなくたっていいんだ。
これが俺の愛し方。
誰よりお前が大切だから。
好きだから、幸せになって。
もう、泣くなよ。
( 初めて俺は恋を知る )
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初恋は実らない。
失恋も大事な経験ですよね
こんな話は意外と
貴方の近くにもあるかもしれません
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