( 私はまだ君の口から )


静かな図書室に響くのは、
本のページを捲る音とペンが走る音だけ。
普段はあまり人の居ない図書室も、期末考査が近づくにつれて放課後、
図書室で勉強をする生徒が増えていた。

そして私もその中の一人。
考査まであと一週間、この期間は各部活動も停止期間に入る。
本来であれば勉強しなければならないこの一週間。
だが休みなしに部活のある運動部は自分の時間にあてているようだ。
中にはカップルでデートに行く人、友達同士でカラオケに行く人も居る。

私にも一応、彼氏という存在は居る。
そう、居るのだが…。
「あ、あのさ!」
「…、何だ。」
「少し休憩しない?ずっと勉強で疲れたでしょ?」
「…別に、俺は楽しいばかりだ。疲れてもいない故休憩は必要ない。」
「そ、そ…か!」
これでも付き合っていると言い張る。

私の目の前に座っているにも関わらず、ちらりとも私を見ようとせず教科書を見詰める彼。
外見は格好良い。だが中身は只の勉強好き冷徹男であるこいつは私の彼氏なわけで。

好きになったのは私の方で、周りとは違う雰囲気や自分らしさを持っている彼に惹かれたのだ。
片想いをしていた時から勉強好きだと言うのは知っていた、が。
(…これじゃ付き合ってないのと同じじゃない!)
未だ教科書を見詰める彼を見詰めながら心の中で呟く。

彼の家に遊びに行っても勉強。
学校では勿論休み時間ですら勉強。
そして、今も。

今更ながら考えてしまう。
何故彼は私の告白を了承したのか。
如何考えてもタイプの違う私と何故付き合えたのか。

流石に不安になってきていた。
その場しのぎにと了承したのかもしれない。
彼にとっては如何でも良い話だったのかもしれない。

(ああ、そういえば…)

あの日君が言ったのは、
素っ気無い「分かった」の一言で。


( 好き、と一言も聞いていない )




-----
憧れと自惚れ。

続きます
-----