「お誕生日おめでと、ツグ」
 放課後を報せるチャイムの後、少女――井原 継美のもとへ、彼女の友人である相田 恵子が駆けてくる。その手にある小さな箱を、継美の机へ置いた恵子に向け、誕生日を迎えた少女は微笑む。
「ありがと、ケイ」
「どういたしまして。早生まれの継美ちゃんも、ようやく十六だねえ」
 恵子の得意げな言葉を二人で笑う。実際に、恵子と継美の間には、約一歳分の差があった。
 その差を時に冗談に使い、明るく笑う彼女に、継美は密かに憧れていた。そんなことを言えば、彼女が膨れるのは目に見えていることが、継美には分かる。だから、黙っている。普段はあたかも姉のように振る舞いたがる恵子だが、そういったことに限っては嫌がるのだ。
「ケイはもうすぐ十七だよね。いいなあ、四月生まれ」
「小学校じゃ、出席番号一番でも?」
「それは嫌」
 肩を竦める継美と、「でしょ」と笑う恵子。普段ならばそれから帰ろうという話になるのだが、恵子はそのまま継美の隣の席へ腰かけた。
「ケイ、帰らないの?」
 継美が問う。ふいと友人から目をそらし、恵子は幾分か声のトーンを落とした。
「今日は、もうちょっといようよ」
「いいけど」
 いち早く帰りたがるはずの恵子が、遠回しに帰りたくないと言っている。無闇と問い質したい気分にかられた。同時に、少しばかりの恐怖も感じる。
 沈黙を破るようにして、継美は口を開いた。