いくつもの世界があると、信じていた。
 少女は空想の世界に身を投げ出す。心の中にある、自分だけの場所に閉じこもれば、厄介な喧噪も何もかも、彼女の世界から消えてしまう。
 それが心地よかった。
 美しく、幻想的で、少女はそこにいる限り、自分の思うすべてを実行できた。背に翼をはやすことも、その翼で空を飛び、鳥と会話をすることもたやすい。少女は自分の中にある世界を愛していた。
 不意な出来事で崩れた、二度と帰れない楽園を思い返し、少女は溜息をつく。遅かれ早かれ、いずれはそうなっていたであろうことを理解したのはつい最近だった。それまで、彼女は自分の世界を壊した人間を、本気で憎んでいたのだ。
 切欠は些細な嘘だった。戯れに友人が吐いた嘘が、少女の楽園をいともたやすく奪ったのだ。
 少女は嘘を吐かれることを恐れるようになってしまった。幻想の住人達が、自分を裏切りやしないかと、常に怯えるようになった。そのうちに――少女は空想をすることが出来なくなっていた。
 幼かったのだ。少女は理解している。戯れを戯れだと理解するには、自分はあまりにも幼かった。
 そして、空想を失ったまま、少女は十六の誕生日を迎えた。