「それにしてもアイツ、遅いですね? 兄貴」

「そう言えばそうだな。何やってんだ?」


とか言ってると、カチャっと音がして扉が開いた。杏里さんが来たらしい。私にはもう、どうでもいいけど……


「栞!」


えっ? この声は、悠馬さん?

思わず顔を上げると、悠馬さんが私に向かって走って来た。涙で目が霞むけど、見間違いなんかではない。


「栞、無事なんだな!? よかった……」


悠馬さんはそう言って私を抱き締めたけど、私は人形のように動かなかった。動けなかったと言うべきか。


悠馬さんは、心底私を心配してくれてるように思うけど、これもお芝居なのだろうか……


「おい、杏里さんは来ないのか?」


サブって人がそう言った時、悠馬さんは明らかにハッとなった。私はその瞬間、サブって人の話が作り話でない事を認めた。