あたしは昼休みになるまでずっと嗄綺と話していた。
「そろそろ、お昼でも食べる??」
嗄綺はあたしの隣から立ち上がりあたしの顔を覗きこんできた。
「う………ん………。」
あの教室にもう1度………戻らないといけない。
その想いはどんどんあたしの思考を暗くさせた。
「大丈夫だよ。」
嗄綺はあたしの頭を優しく撫でるとそんな事を言った。
「大丈夫?何が??」
「波奈が心配することは何も無くなったから。」
嗄綺のその表情は『妖艶』に光っていた。
あまりの美しさにあたしは嗄綺に……………見惚れてしまった。
嗄綺は何をしても完璧だ。
スポーツも頭脳も何もかも。
あたしの『憧れ』であって『羨ましい』存在でもある。
嗄綺はいつだって人の視界に入る人だった。
最初に逢った時の嗄綺は今でもよく覚えてる。
儚げに空をじっと見上げている嗄綺。
その姿に誰もが心を奪われて…………切なくなったか。
「嗄綺、何かしたの??」
いつもの嗄綺の表情とは少し違ったように見える。
「さぁ??波奈がそう思うならそうなんじゃない??」
嗄綺は答えようとしない。
でも、どこか楽しそうに見える。
「じゃあ、行ってみる。」
あたしは嗄綺の右手の人差し指を掴んだ。
「不安にならなくて良いよ。」
あたしがいつも人差し指を掴むのは『不安』になっている時の『サイン』だと嗄綺がいつも言っていた。
多分、本当にそうなんだろう。
実際に今。あたしの心は不安で黒く塗り潰されそうになっている。