「……………さ………き…………。」


あたしはとっさに身体を離して嗄綺の姿を見た。


黒い服には所々に血が飛び散っていた。


嗄綺の顔は………少しだけ殴られたのか頬が赤い。


でも、その顔も服と同じように血で少しだけ染まっていく。


「……………汚いね。」


嗄綺はあたしから少しだけ距離をとった。


「ゴメンね、すぐに………来れなくて。あたし、汚いからあんまり近寄らない方が良いよ。」


「嗄綺っ………待ってっ……。」


「ほら、コイツから服もらって着替えな。」


嗄綺の隣にはさっきの知らない男の人が居た。


その男の人が手にしているのは紙袋。


「はい。早く着替えな??」


優しくその男の人は笑ってあたしの目の前で止まって地面に紙袋を置いた。


男の人はあたしから一定の距離を保ったままそれ以上は近付いてこなかった。


その何でもない『優しさ』が嬉しかった。


「嗄綺っ!!!!」


「大丈夫、早くあの個室トイレで着替えな。一緒に行くから。」


「っ…………うん。」


嗄綺の言葉に、少しだけ涙が出た。


嗄綺はどんな時もあたしを助けてくれる。


初めて逢った時も、男子にいじめられた時も、あたしが…………襲われた時も。


どんな時もいつだって『嗄綺』が来てくれた。


あたしの近くにはいつも『嗄綺』が居た。







だけど………………嗄綺はあたしのせいで『あんな風』になってしまったんだ。



どんな時もずっと近くに居てくれた嗄綺は…………。



「あれから」あたしと居るのは、過ごすのは………。



家だけになってしまったんだ。