ぽつり、今日子はその言葉を漏らした。毎日つくる自分のお弁当。味付けも一緒のはずだが、なぜかとてもおいしく感じられた。それはきっと、佐々木がもたらしてくれたものだろう、と今日子は感じた。
デスクで佐々木を待っていると、昼食を終えた男性社員が数名戻ってきた。
それぞれに飲み物を持ちながら雑談している。
佐々木が給湯室からコーヒーを持ってきて、今日子に渡す。

「お待たせしました」
「ありがとうございます」

初めて見る光景に男性社員、高木と井上が二人に加わった。
佐々木と同期の二人は同じ部署にいる。
二人とも、今どきの若者であるが、仕事はきっちりとして、課の付き合いもいい。

「なんだよ佐々木さん、珍しいね、林さんと一緒なんて」
「林さんのイメチェンについて興味があってお聞きしていたの」
「そうなんだよな、俺も今朝見てびっくり。林さん、すげえ似合っていますよ?」
「い、いえ、そんな……恥ずかしいです」

今日子の顔はみるみる赤くなり、白い肌に赤が映え、色気をかもしだした。

「林さん、かわいい、赤くなってます」
「やめて下さい」
「いやあ、俺の目は節穴だったな、林さんめっちゃ綺麗」
「そうよね、そう言っていたところ」

今日子を囲んで、美人だの、きれいだの、今まで気にしていなかったのが勿体ないだの、言いたい放題だった。
今日子はさらに恥ずかしくなり、両手で顔をおおい、うつむいた。
今日子の計算ではない仕草が、またみんなの関心をかってしまった。
佐々木の言葉に高木、井上も今日子の顔を覗きこんでしまった。
バン!!
すると、大きな音がして、一斉に三人で見れば、後藤がデスクを叩き立ち上がっていた。

「ど、どうかしたんですか? 部長」

高木がびっくりして聞く。
後藤はその声を無視し、大股でデスクを離れた。
何があっとのだろうと3人、顔を見合わせ首を傾けた。
その理由を分かったのは、今日子だけだろう。
機嫌を直すのが大変だと、内心思った。