寝室に入ると、少し大きめのベッドがあり、スタンドに灯りがついていた。
枕も二つある。きっと、付き合っていた女も使ったに違いない。今までの今日子には持ち合わせていなかった、黒く渦巻く感情が芽生えた。
立ち尽くす今日子に何かを察したのか、後藤が転勤から戻ってきて買ったものだと言った。

「え?」
「枕もベッドも布団も全て、お前とこうなると分かっていたから新しいのを買ったんだ」

その自信のある言葉に顔が赤くなる。

「さあ、明日も休みだし、ゆっくりと朝寝坊をしよう。おいで」

後藤は布団をめくり、今日子をベッドへと誘う。
差し出された手を取り、緊張しながら横になる。
後藤が今日子の首の下に腕を回した。
「今日子、俺は我慢を強いられる日々をどれだけ過ごせばいいんだ? 風呂上り姿なんて色っぽすぎる」
「え?あ、あの……」
「きれいだ」
「あまり見ないでください。メイクも落として、素顔なんですから」
「俺は、どんな顔の今日子も好きだ。さっきまでの別人のような顔の今日子も、今のありのままの今日子も」
「本当に?」

思わず、頭を起こし後藤の顔を上から見る。

「嘘は言わない」

後藤の胸から離れた今日子を引き寄せた。

「あー大変だ」
「何がですか?」

 後藤は、俺の問題だから気にするなと苦笑いをした。
今日子は不思議な顔をしたが、後藤が言うのならば、そういうものなのだろう。
後藤の胸に身をあずけると、優しく髪をなで続ける手の優しさと、初めて体験する異性との肌の温もりに安心し眠りについた。
 今日子の心地よい寝息が聞こえた。

「寝たのか」

今日は余程楽しかったのだろう。普段は口数の少ない今日子が饒舌に話をしていた。植草に感謝しなければならない。植草から聞いた、今日子の過去はそう簡単には克服できまい。これからの困難な壁にぶちあたることもあるだろう。これからは、笑顔の日々を過ごさせてやりたい。やっと後藤のもとに来た天使だ。長かった。今日子の幸せは俺が与える。喜びも、悲しみも共にある。今日子の寝顔を見ながら、後藤は更に決意を固めた。
しかし、自分が選んだネグリジェとはいえ、色っぽ過ぎる。華奢な体つきに似合わず、胸がある。男の生理で盛り上がった部分に目が釘付けになる。

「ちくしょう、眠れねえ」

後藤は悶々として、羊を数える。

「ヒツジが一匹、ヒツジが二匹……あーヒツジくらいじゃ眠れねえ。違うことを考えろ、数学、仕事、物理、なんかねえのか」

こうして後藤は眠れぬ夜を過ごした。