「今日子、先に風呂に入れ」
「でも、私、洗面道具を何も持っていないので買いに行かないと……」
「ちょっと、来て」

 今日子を洗面所に連れて行く。

「今日、絶対に帰らせないつもりだったから、お前がいない昼間に買い物してきたんだ。歯ブラシ、バスタオル、フェイスタオル、それと、これは何を使っているか分からなかったから、トラベルセットの小さいやつを買ってきた」

 と、化粧水、メイク落とし、洗顔フォームなどの基礎化粧品一式を見せた。

「部長、こんなに?」
「少しばかり恥ずかしかったが」

後藤は照れて鼻の頭を掻く。
後藤も買うのを躊躇った。植草に買ってくるようにとメールを送ろうかとも思ったが、後で何を言われるかと思ったら、自分で買った方がいいと、勇気を出した。

「そうでしょうね、部長が……」

今日子は本当に幸せだと感じた。心からそう思ったのは初めてだ。
一緒に買い物に行った、ネグリジェと、今日買った下着を持ってお風呂に入る。
お風呂に入ると全身を鏡に映して見る。今までは絶対に全身を鏡に映して見ることはなかった。それに、嫌悪感を抱くほどきらいだった体がそう感じていないことに気づく。
メイクを落とし、顔を見つめる。それも違和感がない。その違和感は違う方向に現れる。

「私の顔、これ……」

イグアナの娘というドラマがあったが、鏡に映る自分の顔はイグアナだ。今日子はそんなように自分の顔を見ていた。だが、嫌悪感を抱くあの顔はない。
首をかしげつつ、ゆっくりと 湯船につかり、今日の一日を思い出す。
洋服だけではなく、メイク道具、化粧品、下着まで買った。後藤の所に何も自分のものはないから予定外の買い物ではあったが、衝動買いも役にたった。
お風呂から上がり、買ったものを身に付ける。頭にタオルを巻いたままリビングへと行く。

「部長、お先にお風呂頂いてしまってすみません。どうぞ」
「え!?……あ、ああ」