「くだらない」

後藤は、ふんと鼻でバカにしたように言った。

「そう言わないでください。褒められるのはいいことです」
「褒められ? 俺をそういう対象として見ているだけじゃないか」
「それだけ、魅力があると言うことです」
「俺は、今日子だけでいい」

そう言いながら、後藤は、今日子を抱きしめる。
それは、今日子にとって嬉しい言葉であったが、 初心者にはちょっと、刺激が強すぎるのではないのか。嫌ではなく体の芯から何か熱いものが込み上げる。これは当たり前の生理現象なのであれば、異性に何の欲情を持たなかった今日子の女としての部分が顔を出している。

「女子の間では部長の話題が出ているようです。よく名前を聞きますので」
「やきもちを焼いてくれるか?」

後藤は、今日子を自分に引き寄せ、耳元で囁く。
今日子の白い肌は、みるみる赤くなり、後藤はそれだけで満足だ。
こんな後藤を女子社員が見たらどういうかと、今日子は複雑な心境だ。頼れる恰好がいい上司でいてほしいが、モテすぎるのも困る。そんな感情を抱くことが出来るようになったのは、後藤のおかげだ。
甘い時間は過ぎるのが早い。テレビを見てくつろいでいたが、そろそろ帰らなくてはいけない時間だ。

「部長、私そろそろ帰らないと」
「もう、そんな時間か? 楽しい時間はすぎるのが早いな。送っていくよ」
「え、電車のほうが早いですから……駅まで送って下されば結構です」
「途中で変な奴にからまれでもしたらどうする」
「ふっ、部長、私のこの顔ですよ? そんな事あるわけがないです」
「今日子!! 二度と自分を卑下するな、何度言えばわかる。俺は……この目、この鼻、この頬、そしてこの唇すべてが愛おしい」

そう言いながら、順番にキスをしていく。最後の口へのキスは長く愛情込めたものだった。

「……ごめんなさい」
「お前は俺が認めた女だ。もっと自信をもつんだ。これからそんなことを言ったら、罰として、キスをすること、いいな?」
「え、あ、あの……恥ずかしいですよ」