会社でのあの鋭い目つきに俺様の感じは何処へ行ってしまったのか、ただの甘えん坊と化している。
思いが通じ合うと、途端に甘くなったり、子供になったり、束縛したりと忙しいものなのかと、今日子は混乱した。

「えっと、その」
「してくれないなら、もういい」

黙ったまま食事の続きをした。

「わ、わかりました。すればいいんですよね? すれば」

好きになった後藤に言われても、勇気がいることだ。スタートを待つランナーのように、深呼吸までした。

「そうそう。はい」

後藤は身を乗り出し、口をとがらせる。
猛烈に恥ずかしかったが、自分も身を乗り出して、後藤の唇にキスをしようと唇を近づけるが触れるまでの勇気がでず、まごついていると、首元に手が回り引き寄せられた。じらついて、後藤が仕掛けたのだ。
あまりの恥ずかしさに顔が赤くなり、両手で顔を隠した。

「さあ、美味しくごはんをいただこう」

後藤はご機嫌だ。これが恋愛というものなのだろうかと、今日子は考える。 途轍もなく恥ずかしい。どうしよう。ついていけるだろうかと、自問自答していた。そして、そのことを心なしか楽しんでいる自分に今日子は驚いた。
今まで気づかなかった一面を後藤が引き出してくれているのかもしれない。

「どうした? 食べないのか?」
「た、食べます」