絞り出すような後藤の切ない声に、ついて行ってみよう。この人に自分の初めての恋愛を賭けてみようと今日子は思った。まだまだ怖さでいっぱいだ。発作も治らない。でも、この人の傍に居たい。そう、好きなんだ。この時に確信できた。他人を信用しない今日子が初めて恋愛を決意する。

「……はい。でも私、あの」
「分かっている。なんでも初めてなんだろ?俺にとってこんなに嬉しいことはない。お前の全ての初めてが俺なんだ。絶対に消えない、記憶に残るじゃないか」

真摯に見つめてくる後藤に、恥ずかしくなり目線を逸らそうとした時、いいタイミングで、炊飯器の炊き上がったメロディーが流れた。

「ご、ごはんの支度をします。」

恥ずかしすぎる状況に、炊飯器が救世主となった。

「ふっ、そうだな。腹へったな」

まさかの状況に、さすがの後藤も気恥ずかしくなった。

「キッチンをお借りします。手伝って頂くことはないので、テレビでも見ていて下さい」
「わかった」

後藤は名残惜しそうにもう一度軽くキスをした。
食事の支度が済むと、茶碗や箸、お椀の場所が分からず、後藤に声を掛けながら支度を済ます。

「部長、お箸とかの場所が分からないんですけど」
「あ? あー分かった。でも、そういえば食器もないんだな」

キッチンの戸棚を開け、代わりになりそうな食器を探す。

「明日、一緒に食器を買いに行こう。な?」
「はい」
「今日はこれで我慢しよう。しかし酷いな。料理は美味しそうなのに、器がこれじゃな」
お椀は一つ茶碗も一つ、あとは小鉢とボウルで盛り付けた。

「本当に、おかしいですね、部長」

笑顔で後藤を見ればまたしても、唇を奪われた。

「今日子、それ、たまらない。他の男にその笑顔を見せるな。俺だけのものだからな」
「は、はい」