植草にそう言われて、後藤は頭を抱える。
今日子の様子を見ていると、後藤を受け止めているかのように見えていたからだ。
確かに、今日子と出会うまでの後藤は、女に不自由しなかった。寄ってくるもの拒まずとまでは言わないが、それに近いものがあった。告白などするまでの女とも出会わなかったのも事実だ。ずっとそんなことをして来れば、何か大切なことを忘れてしまっても仕方がないのかもしれない。

「聞いたら、好きになった人は今までいなくて、男性ともお付き合いしたことがないんですって。だから分からないのよ、恋愛が、どういうものか。これは大変よ?」
「だが、恋煩いをしていると言ったな? じゃあ、前進あるのみだな」

口元をニヒルに上げる。

「眠れる獅子を呼び起こしてしまったんだから、ちゃんと責任をとりなさいよ?」
「……分かった」

医務室を後にすると、嬉しさ反面、ガラスのような神経で強引に迫ったらどうなるのかと、怖さもあった。こんな自分に笑える。今までの二人でもう自分に気持ちがあると確信していたが実は違った。また、金曜日に何処かへ誘うつもりだった。人目に付かず静かなところだ。もし、林の状態がよければ告白しよう、そう後藤は心に決めた。
デスクに戻り林に、今週の金曜日、予定を空けとくように社内メールをした。
返信がなかなか来なかったが、終業間近に、分かりましたと返信がありホッとした。
純情な恋愛行程だな、と後藤はおかしくなった。自分もいい年齢だ。付き合った女もたくさんいた。こと今日子に関しては、手取り足取りで段取りを踏んでいる。過去の恋愛のようなショートカットは今日子とではありえないのだと、植草に教わる。
後藤が待ち望んだ二人の関係まであと一歩の所まで来ていた。