週も明け、やはり今日子は早朝に出社した。今までやってきたことを放りだすのが気持ち悪かった。部署には後藤の姿はなかった。寂しいような、ホッとしたような複雑な気持ちだ。
 土日の休みは、今日子らしくない行動をしていた。
 心臓がバクバクと激しく打つと、体も動く。そして落ち着かないのだ。家の中では、用もないのに立ったり座ったりして、いつもはしないサッシの掃除など、気を紛らわすために大掃除をしてしまっていた。 そんな自分に一番驚いたのは、今日子自身だった。
掃除も終わり、コーヒーを持ってラウンジへいく。
金曜日のことを思い出しながら外の景色を眺める。すると、背後から強く抱きしめられた。

「おはよう」

耳元で囁く後藤の声に鼓動が激しく波打つ。

「お、おはようございます」

いったん今日子から離れ、振り向かせると、顔からメガネを取りもう一度抱きしめた。
朝日に照らされる今日子の髪が艶々と光り、とても綺麗だ。後藤は一つに束ねている今日子の髪をほどいて撫でた。

「きれいな髪だ」
「……」

髪を撫でる手が心地よい。

「俺以外の男にこの髪を触らせるなよ」
「……はい」

後藤の命令ともいえる言葉に、素直に返事をする。
今だかつてこんなに強引、且つ命令口調で言われたことはなかった。触らせるなと言うが、もう後藤の物になってしまったのか?返事をした自分に驚く。嫌な気持ちはしないが、後藤の気持ちが今日子には分からない。どう解釈すればいいのか、恋愛経験のなさが仇となり、全く分からないのだ。しかし、何故か後藤の言葉に素直に応じる自分がいた。今日子は自分の気持ちも分からなくて、動悸だけが激しく鼓動を打っていた。

「仕事の時間だ。先に行っている」


愛おしそうに今日子を見つめ、頬を手の甲で撫でた。