そうか、あなたが傍にいてくれるのか、一人で鎮めなくていいのか。
発作の最中に今日子が思ったことだった。一人が寂しかったわけでもなく、一人が当たり前だと思っていた日々。だが、今の今日子は一人が怖かった。
 どれくらいそうしていたのか、すっかり発作も治まっていた。今日子は、自分でも全く分からないが、離れたくない気持ちが強く、後藤にすっかり身を委ね心地よさに浸っていた。
 その間にも後藤は背中を摩り続け、時より髪を撫でた。

「静かだな、海。日頃の忙しさから離れると、気持ちも落ち着く。お前と来られて良かった」

 夜の海の静けさがそうさせていたのか、今日子はコクンと頷いた。

「部長……何故、私を放っておいてはくれないんですか? 私は、部長とはつり合いません。どうかそっとして置いてくれませんか? お願いします」

 後藤に身を預けながらも、頭ではつり合いが取れないと拒否をする。心と頭の考えが一つにならず、何もかも投げ出したくなってしまう。

「林。お前が思う程俺は出来た人間じゃない。むしろお前の方が俺には輝いて見える。ドライブに誘うのだって勇気がいったんだ。つり合いって何を基準で言っているんだ? 容姿か? そんなものクソくらえだ。俺はお前の傍に居たい。だから、離さない。どんなことがあってもだ」
「私の人生は、他人から分からない、透明な存在でありたいんです。でも、今は毎日がつらいんです。だから……私を少しでも心配してくださるのなら、切り離して、放って置いて頂けませんか?」

今日子は懇願した。心からの懇願だ。それを後藤は受け止めない。

「無理だな。お前と共有する時間が、俺の人生だからな。切り離すことなんかできやしない。俺以外の男には、透明な存在でいろ。他の男の目に映らなくていいからな」