彼は黙って前方を見ながら、白い煙を吐き出す。
もう外は暗くなっていて、公園だと彼が言う目の前のそこにはただ暗い広場らしきものがあるだけで、人の気配はない。
駐車場にも、他には一台も停まっていなくて、ただ自動販売機の灯りだけが見えた。


「停めて、ゆっくりちゃんと話したかったから」
「…………ごめんなさい」
「何が?」
「その…嫌な気分にさせたみたいで」
「それは、ちょっと違う」
「え?」
「嫌な気分っていうか、怒ってるとか、そういうんじゃないから」
「………」
「あ、いや、違うか。ちょっと怒ってるかもな」
「…………」
「あなたが思ってるような女じゃない、とかさ、言わない方がいいと思うけど、そういうこと」

ズキン、と、胸の奥のほうが疼いた。
だってあたしは、いい女じゃない。
特別可愛くもなければ、性格だって、悪くはないと思うけれど、飛び抜けていいところも、面白いところだってあるわけじゃない。
だから、好きだと言ってくれたアイツだって、あたしより可愛い女の子に出会って、あたしの元からいなくなった。

あたしがもっと可愛ければ。
あたしにもっと、なにか取り柄があれば。
そうすればあたしだって、もっと自分に自信が持てるのに。
いつもいつも、そんなふうに思っていた。


「俺、確かにまだ、彩乃ちゃんのことそんなに知らないけど、でも、俺が知れる範囲での彩乃ちゃんのことを知った上で好きだって言ってんだからさ。失礼だと思うよ。俺にも、彩乃ちゃん自身にも」